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大阪高等裁判所 昭和30年(ラ)199号 決定

抗告人 福田俊一(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告理由は別紙のとおりである。

原審が認定しているように、抗告人が昭和二十七年○月○○日と同年○月○○日の二回に亘り大阪簡易裁判所で窃盜罪により懲役刑に処せられ

、引続いて服役し、昭和二十九年○月頃仮釈放せられ、現在その刑の執行を終つたものであることや、長女由美が祖父権四郎から遺贈を受けて所有する(右権四郎は遺贈に際し親権を行う抗告人に管理させない意思を表示したので抗告人にはこれが管理権ない)滋賀県○○郡○○町所在の山林の立木を昭和二十七年○、○月頃山川雄一、村岡菊三等に勝手に売却し、その代金数万円をその頃自己の用途に費消したこと、又前同様権四郎からの遺贈により由美の所有となり抗告人に管理権のない大阪市○○区○○○○○丁目○○○番地上家屋の一部に現住して残部を他に賃貸し、その賃料毎月三万円を取立てて、これを勝手に全部自己の生活費等に消費している事実は、何れも原決定の挙示する証拠によつて十分認められるところである。

而して当裁判所は、かかる抗告人の行為は、民法第八百三十四条に所謂親権喪失の原因たる著しき不行跡と云はなければならないと考える。

抗告人は、過去においては家庭の事情の為、色々素行が修まらなかつたけれども、服役後は妻を迎へ家庭に落着き商売を営んで居り現在においては由美の親権者として欠くるところがないと主張するからこの点につき考うるに、過去において擯斥せらるべき不行跡があつたにせよ、その後反省しこれを改めている情況であるならば、現在親権喪失の原因たるべき著しい不行跡があるとは云へないであろうけれども、過去の不行跡が、既に消滅して現存しないと云い得るが為には、親権者において道義的反省をして前非を悔い従来の不行跡を改め且将来再び同様の不行跡を繰返す虞がない程度に遷善向上した事実がなければならないであろう。然るに抗告人の右所為は何れも時間的にさして遠いものでもなく且或ものは現存しておるものであるし、原審における証人谷村与助、山田勝一及抗告人本人の各尋問の結果によれば、抗告人は現在においても働ける体をもちながら、ふらふらして働かず、前記の如く由美所有の家屋による賃料によつて自己の生活を営み、その他に何等の収入もなく、且浪費癖は少しも改つていない事実が認められるので、抗告人が喪心前非を悔悟し能く改過遷善したものと確認するに躊躇せざるを得ないところである、さすれば抗告人に現在親権喪失の事由たる著しい不行跡がないとは到底云いきれないのである。

抗告人がかかる状態である以上、由美の監護教育の任に当るには不適任であつて、抗告人をして親権を行はしめることは親権制度の目的たる子の保護に反するものと云はねばならないから抗告人の由美に対する親権を喪失せしめるを相当と認める。

然らば抗告人の親権の喪失を宣告した原審判は、結局相当にして、本件抗告は理由がなく、これを棄却すべきものとし、費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり決定する。

(裁判長判事 松村寿伝夫 判事 藤田弥太郎 判事 小野田常太郎)

抗告理由

一、抗告人は福田秀男の申立により「親権を行使し得る状態にありながら事件本人の子由美を監護せず親権を濫用して由美の不動産を売却しその財産を危くするおそれがある」との理由で大阪家庭裁判所に於て親権を喪失せしめる旨の審判を受けた

二、然し抗告人は昭和廿九年○月頃仮釈放せられ出所後事件本人の子由美を引取り監護教育すべく福田つねに引渡方を要求したが同人は之を拒否して肯せず止むなく現在に至つて居る次第で抗告人は最近後妻を娶り家庭生活を営み且つ○○商事金融部の店舖を開き金融業を営んで生活も安定しておるので何時でも由美を引取り監護教育する用意はして居る

三、尚審判理由中滋賀郡○○郡○○町の山林の立木を売つたこと大阪市○○の家屋を他人に賃貸したことも間違いはないが之等は抗告人が出所後無一文であつたし由美を引取る為生活の安定を得なければならないから敢えてした事で別に私腹を肥やす為ではないのである

四、抗告人は服役する迄は家庭の事情の為色々素行が修まらなかつたけれ共其責任を果して出所後は前記の通り妻を迎へ家庭に落着き商売を営んで居るので由美の親権者として此上親権を濫用して其財産を危くする様なことは絶対にありませんので何卒抗告の趣旨記載の通りの御審判を仰ぎ度此段申立に及んだ次第であります。

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